タイトル:「音色」

 

12月の藍色の空が僕を締め付ける。
レモンティーは揺れて、静まらない。
明日きっと僕がここにいなくても地球は回り続ける。
なにごともなかったように。
でも、
「でもさ、君のいない僕の世界に夜は明けない。」
冬の夜空にそんなことをうそぶ嘯いた。


甘い甘いその紅茶は僕を微睡ませる。
その微睡みに僕は溶けていった。

 

起こしたのは、音色。


か細い、ハーモニカの音色。


月光を溶かすように旋律は流れる。

薄目を開けて、音色を奏でる主を探す。


そこにいたのは紛れもない君だった。
否、君の面影を残した黒猫。
猫は一声鳴いて、くわえていた楽器を落とした。
それは三日月を映すハーモニカ。
君の、ハーモニカ。
それを手に取ると、笑う君が見えた気がした。

 

奇跡の夜に君とふたり。
僕の世界に橙色が差した。

 

 

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