在る日のアジトのキッチンにて

彼女の作る料理はどうしてか色彩に溢れた見た目だ、と回らない頭のままであるコノハは危なっかしげな彼女の様子を見つめていた。

時は、皆がやるせないような、そんな表情をする十二時近く。団員の誰かのお腹がきゅうっと音を鳴らしたそんな時に、ぱっちりとした茶色の目を瞬かせて、モモはこんなことを述べたのだった。

 

「じゃあ、今日は私が作って見せますよ!」

 

 

やるせない表情であった団員たちがその言葉に、切られたスイッチに電源が入るかのように恐ろしげな表情を浮かべた。このままではまずいなんていうアイコンタクトを交わすカノとキドにコノハは何のことか分からずにただただ豹変した皆の様子に戸惑いを隠しきれなかった。

彼女の正真正銘の兄であるシンタローは三白眼な目を大きく見開いて、ひざを抱え震えていた。液晶画面の青い少女はからからとそれをからかってはくるくると宙返りをしている。

「?」

きっかり45度に首を傾けて、それでもこれが食べ物についての話であることに気付いていた、それが悪かった。

コノハはおもちゃを貰った子供のように目を輝かせた。他の物への関心は薄いが、食べ物に関してだけは異常な関心を見せるのが、真っ白な青年の特徴だった。

 

「モモ…料理がんばって…!」

 

その言葉に思いつきで提案したであろうモモの目に力強い光が宿る様を団員たちは泣きそうな様子で見つめていた。

 

 

じゅうじゅうという何かがこげる音が響く。きっと先ほど割りいれた卵であろう。卵焼きを作ってみせる、と張り切っていた彼女。頭のよい兄の言うように強火にしすぎたのが行けなかったのだろうか。コノハはのんびりとした口調でそれを注意すると、彼女は編まれた三つ編みをふわりとたなびかせてフライパンへと向かってゆく。

 

穏やかな日々の中で、コノハはふと彼女の様子に目を細めた。昼下がりの淡い木漏れ日が明るいキッチンと、そこに立つ茶髪の少女を柔らかく包む。キドの引っ張りだしてきた初心者用の料理本とにらめっこしている彼女は、心底真剣な目をしていた。

どうしてなのだろうか。いつだって一生懸命な彼女は、いつまでも見守っていたいようなそんな気がする。明るい、例えるならば差し込む木漏れ日のように笑うモモ。きっと彼女の作る料理には、団員たちへの彼女なりの愛情が込められているのだろう。きっとここの団員たちならば、それを笑って受け止めてくれるのだろう。コノハにはそんな漠然とした考えがぽうと浮かんで、それからどこかへと消えてゆく様を感じていた。

 

 「コノハさんー!あそこの泡だて器の箱を取ってください!ごめんなさい、ちょっと魚の切り身が焦げてしまいそうで…あ、焦げてる」

 

呼ばれたモモの声に、ゆるりと振りかぶって、それからコノハはキッチンへ向かっていった。

   


(20140622/在る日のアジトのキッチンにて/コノハ+モモ)