硝子の欠片に似た言葉たちは戻らない

ちろ、と彼女は舌を出して、少しだけ笑った。赤い、紅い、あかい。鮮烈なその色は闇の中で艶やかに存在を示した。夜の帳は下りた。きっと彼等は昼のような関係に戻れやしない。ここには茫とした目の少年と少女が在るだけ。何も見れない、見ようとしないふたり。今宵も彼等は意味なく身体を重ね、笑う。(カノキド/140文字)

 

 

「持ってきてやったぞ」溜め息をつく彼女は二つ分のマグカップを机の上に置いた。湯気を揺らすそれの中はきっと真っ白なミルク。笑みを返すと彼女はいつものように隣に座り込んだ。...…いつものように?少し距離が近い気がしたのは何故だろう。目を逸らす彼女をどうしてこれ程愛しいと思うのだろう。(カノキド/138文字)

 

 

「キドはお菓子くれないの?」とカノがくすくすと笑ったことが始まりだった。数分前に口に含んだ甘い飴玉の味が転がる。相変わらずブツブツ文句を言うカノ。ああうるさいな。悪戯するぞと言うカノにふと唇を触れ合わせる。そっと飴玉を相手へ押しやり満足か、と問うとカノは反則だよ、とひとつ呟いた。(カノキド/140文字)

 

 

「月はいつもひとりぼっちだ。」瞳を街灯に映して彼は言う。「そうかもしれないな。ただ、」ただ?首を傾げた彼は笑う。くすくすと。「月にはうさぎが住んでいるからな。」ふわり笑めば意外そうに彼は眉を上げた。「ああ、なるほど」月が見守るその下、その耳元に囁いたのだ。お前はひとりじゃないよ。(カノキド/140文字)

 

 

君はいつだって笑顔だ。戯けたようにくすりと君は笑う。でも知っているんだ。その笑みは自分のためではない。他人への優しさなのだ。その暖かい笑みは幾度凍りついた心を溶かしたのだろうか。ふと隣でか細い声が聞こえた。馬鹿。お前は優しすぎるから。耳を掠めた「助けて」。宙を掴むその手を、今。(カノキド/139文字)

 

 

さよならなんて言葉は全く現実味がなくて、それでもそれを口にする彼女の瞳は鮮烈に焼き付いてしまったのだ。さよなら。笑顔はいつも通り。さよなら。声は掠れていて。あの日いなくなった彼女になろうとして、それでも俺は彼女の代わりにしかなれないのだ。幸せでいれますように。彼女の願った世界は今。(シンアヤ/141文字)

 

 

ナミダというものが分からなかった。ヒトの流すそれは面倒なだけなはずなのに。そう零すとメデューサの少女は僕に言う。涙は心が締め付けられる時に溢れるものだと。ふと脳裏を横切る、夕焼けの似合う少女。告げられた言葉は何故か心を締め付けた。「誕生日おめでとう、***」。頬を伝う雨は?(コノエネ/140文字)

 

 

頬に触れる。暖かい、血の通った人のぬくもり。伝う雫は、涙?ふと少女を思い出す。赤の似合う、笑顔の少女。その姿に憧れて、淡い思慕を抱いたって彼女はもういない。言葉を吐く。彼女が愛した少年の涙を掬いながら。「貴方はヒーローなんですよ」そして彼らは愛した少女の面影を互いに重ね、笑った。(セトシン/140文字)

 

 

赤は鮮烈な色。だから俺はその色を嫌った。それでもそんな赤を身にまとう彼女はいつだって強かだ。そんな強かさを抱けるようにその背中を追った。彼女が愛する世界を歩けるようにたなびく赤いマフラーを追った。世界の果て。夕焼けの教室で彼女は笑う。追いかけた先、佇む赤色の空間に少年は泣いた。(シンアヤ/138文字)

 

 

わあ、と隣で声をあげたのは赤色の似合う君。流れ星だ、とくすくすと笑う君を横目で流しながしつつ夜空を見上げた。何を願ったんだと尋ねれば君は折り鶴を片手に笑うだけ。アヤノ 。今は亡き君の名を呼んだ。流れ星には自分の幸せを願うものなんだよ、馬鹿。片手に握った折り鶴に書かれた言葉は。(シンアヤ/138文字)

 

 

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