初夏の窓、言葉のかけら。

どれほど遠く歩いてきたのだろうか。思い出をなぞって紡いだその道の先に何もないことを知っているくせに。ぽつりと雨が窓枠を打った。雨夜、今日も赤い瞳に寂しさを映しながらぶれることのないピントを持つ貴方を思う。(セトマリ/102文字)

 

 

夕暮れ時のかくれんぼ。見つけた、と笑った貴方が幸せそうだったのを私はよく覚えている。数字の海に沈んだ私が見つけた貴方はとても苦しそうに泣いていた。蒼い世界で叫ぶよ。「もういいかい?」なんて馬鹿な言葉を。(コノエネ/102文字)

 

 

どこからか唄が聞こえる。口ずさむ貴方は優しげな手つきで古いオルゴールを回す。ぽろんと壊れかけの音が響く。「覚えている?これお姉ちゃんがよく歌っていた唄だ。」微笑む。お姉ちゃんが誰かを覚えてない、なんて言えないんだ。(カノキド/107文字)

 

 

「好きだよ」って唐突に言葉を放る。驚いたように貴方は笑って「好きだよ」って返してくれた。赤い色。本当かな、なんて思う。ああ、僕の悪い癖だ。気だるげなソファで交わされるやりとりに存在意義を見出すんだ。(カノキド/99文字)

 

 

手折られた花はしなれてしまった。いつだってそうなんだ。僕が手にするものはいつもこの手の内で儚く砕け散ってしまう。ふとあの気丈な少女を思い出す。大丈夫、安心して。呼ばれた名に振り向く。貴方だけはしなせないから。(カノキド/104文字)

 

 

夢とか、希望とか。でもそんなの絵空事だって知っていた。縛られた世界に散りばめられた今を取っとこう。はにかむ貴方と一緒に私がここにいたという事は絵空事じゃないから。ぽつり、落ちた雫が字を滲ませた、月夜。(シンアヤ/100文字)

 

 

いい天気ですねと僕は笑った。雨は降り止まない。そうですね、と貴方も笑う。黒曜石のような鋭さを秘めた瞳。たなびく翡翠色の髪。たおやかに笑む。偽りだらけのせかいの中心には汚い本心があった。「誰か僕を見てよ」(カノキド/101文字)

 

 

貴方はいつだって優しい。ふと思い切って尋ねてみたことがある。「貴方は誰かを愛し、そして愛された事がありますか?」彼は悲しげに笑んだ。「僕にはないんだ」私の白い髪を梳く貴方に笑った、薔薇に口付けて。私は貴方を愛しています。 (セトマリ/109文字)

 

 

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