そして彼らは歪な愛を上演する

ねえ、なんで僕らこんなにもひとりぼっちなんだろうね。
翡翠色の髪をくるりともてあそぶ幼馴染にそっと問うた。誰にも聞こえないような、かすれた声で。
 
 
そして彼らは歪な愛を上演する
 
 
夜は群青色とともにやってくる。いくらかの安心感と一抹の不安とともに。
夜は好きだ。あれだけ綺麗に見せている世界のぐちゃぐちゃな部分があふれ出してくるから。
僕がついてきた嘘や傷だってそこの中に溶け込んでしまう。それの代償は「自分」。
「まあ、いいのさ。自分なんて見失っても誰も困らないから。」
そう自嘲した言葉も夜の闇に溶けていく。
 
そのはずなのに。
 
なんにも意味はないけれど瞳を赤く光らせた。それが強がりだなんて誰にも分からないはずだ。
ぎゅっとひとのぬくもりのない右手を握り締めた。僕が寂しいと思っている、なんて。
 
そのはずなのに僕は時々怖くなってしまうのだ。
全てを飲み込んでしまうようなあの夜の中で「もし、本当に自分を見失ってしまったら」と。
「だれも、僕を見つけてくれなかったら」なんて。
 
ふと、よぎったのは僕の大切な‘幼馴染’。
 
あの雨の日に冷め切った手を握ったのは君だった。
 
見失いかけた時に、必ず手を握って自分を見つけてくれた、泣き顔の君。
「ひとりにしないで」と言う、震える手を握り締める君。
「修哉、修哉。修哉がいなきゃ私笑えないよ」そう泣きながら目を擦った君。
 
ねえ、明日も一緒にいようね。私たちきっと人一倍ひとりぼっちなんだ。
私たちきっと自分が嫌いなんだよ。
 
そう笑った君の顔は忘れることなんてできない。
 
ああ、君に泣かれるのは嫌だなあ。
 
そう思いながら緩やかに口元を広げた。ああ、まだきっと大丈夫。
 
人肌が恋しい、なんて思ってしまうのは、きっと君が僕の手を握ってしまったから。
まだ見失いたくないと思うのは、きっと君に泣かれたくないから。
 
ああ、まったく困ってしまうよ。
 
明日も君と笑っていようと思うのは、きっと君が僕とそんな約束をしてしまったから。

軽いノック音にそっともの思いから目を覚まして。

きぃ、という音を立てて開いたドアの先にいるはずの君の名を呼んだ。
「なあに、こんな夜遅くにどうしたの?キド。」
君は何も言わずにそっと椅子へと座った。
昔、夜が嫌いだといった少女はいつしかその約束を口にしなくなった。
その少女はいつからか皆から慕われる団長となった。
君はいつからかふたりじゃなくても笑っていけるようになった。
 
じゃあ、僕は?
 
「なあ、カノ。」
不意に呼ばれた言葉になあにと返せば、君は泣きそうな顔をしながらぎゅっと僕の手を握った。
流れ込む、ひとのぬくもり。
「カノ。夜が怖いんだ。へらへら笑っているお前が夜が訪れるたびに遠ざかっていくようで。
ひとりはいやなんだ。いつまで立ったって俺は泣き虫で寂しがりやなんだ。
カノ、俺をひとりにしないで。明日も一緒にいてくれよ。」
 
ああ、なんだ。君だって同じだったんじゃないか。ひとりぼっちが嫌で、寂しくて、だから隣にいる相手にすがって。それでも。
 
「ねえ、キド。それでも何で僕達はこんなにもひとりぼっちなんだろうね。」
そう掠れた声で問うた。返事はあるわけがない。
どれだけ相手にすがったって、どれだけ自分を嫌ったって。僕らはひとりぼっちなまま。
 
約束の裏。思いの後ろに隠れた思慕はだれにも見抜けない。
 
「ねえ、キド愛してる。」
そう僕は囁いた。
 
その言葉には何の意味もない。それはただ僕らが明日も一緒にいるための口実。
ねえそのはずなのに何故君は悲しそうに僕を見つめるの?
 
歪な愛を上演しながら、僕らは夜に溺れてゆく。
 
 
(幼い思慕すらそっと夜へ沈んで)