淡色シュガー

叶わない、なんて信じたくなかったんだ。

 

淡色シュガー

 

初恋は叶わないとどこかで聞いたことがある。

幼い頃は切ないなぁ、くらいしか思わなかった。

折角好きになってもそれは叶うことはないなんて。

ねえ、そう思わない?と可愛らしい淡い白のつぼみを見つめながらひとつ、零してみたりして。

砂糖の沈むアップルティーをひとくち。

 

そう、思っていたのに。

 

初恋は叶わないとどこかで聞いたことがある。

君に出会って二度目の春、ただの噂だと思った。

頭の片隅で、あの優しげな笑顔が浮かんでは消えた。

その度にあったかいなにかが溢れ出した。

これが何かあんたは知らない?と淡い紫の花に問いかけた。

さあ?と返すようにふわりとそれは揺れた。

砂糖を小さじ一杯、くるくるとレモンティーに溶かして。

 

君に出会って三度目の春は、来ることはなかった。

 

初恋は叶わないとどこかで聞いたことがある。

君と別れて一度目の春、ああ本当だったなぁと思った。

くすぐったくて優しいあれを恋と呼んで、なおかつその想いを君に伝えられていたならば。

今、私を苦しめることはなかったのだろうか。

ああ、いずれにしても私は伝えることができなかったのだから。

胸ポケットにさされた二輪の淡色の花。

それぞれあとひとひらできっと花弁はなくなってしまう。

ああ、もうどうだっていいや。

ぶかぶかな袖、消えた足、画面から出ることの許されない自分。

私はきっと君に会えないまま永久をさまようのだから。

 

そう思っていたのに。

 

「エネ、初恋は叶わないっていう言葉知っている?」

初恋は叶わないとどこかで聞いたことがある。

君に再会して一度目の春、やはりそれは本当だと思った。

 

「聞いたことありますよ。コノハさん。」

君に会えても私と君には大きな壁があった。

ふれられない、だきしめられない。

それでも。君の隣に私じゃない優しい誰かが君と笑ってくれるなら。

 

「恋ってなんだろうね。」

「あれ、コノハさん。恋をしたことはないんですか?」

「うん、どういうものなの?」

少し間を置いて、くすりと笑いながら私は告げる。

 

「くすぐったくて優しいものですよ。砂糖のように甘くて儚い大切なもの。」

 

「ふうん。詳しいね、エネ。」

「まあ、ですね。

あ、コノハさんこれあげます!」

何もかも忘れてしまった、ひどく優しい君。

そんな君にこの言葉を送ろう。

 

淡色の白い花弁が一枚残った花、一輪。

 

ああ、空が桜色だ。

 

 

(きっとこの色は)

(あなたを想った初恋の色)

 

 

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